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Vol.206 『永遠の0』

TOHOシネマズ日劇1にて『永遠の0』を観賞。山崎貴監督による、太平洋戦争で散った一人の特攻隊員の物語。
祖母の葬儀で祖父と血縁がないことを知った佐伯健太郎は、実の祖父であり、太平洋戦争時に特攻出撃によって帰らぬ人となった宮部久蔵について調べ始める。宮部を知る人から語られる人物像は、生還するために戦闘に参加しない臆病者であった。その宮部がなぜ特攻という最期を選択したのか? やがて健太郎は、その最期を知る人物にたどりつく……。

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「家族のもとへ、必ず還る」。今だったらごくごく普通の思いを表だっていえなかった時代。さらに言えば、戦争という狂気の中で、そうした思いが間違っていると誰もが思っていた時代。それを口に出し、家族の将来や、遠い未来の日本の姿に思いを馳せていた宮部もまた、戦争の狂気に飲み込まれていく。
真珠湾にいなかった空母、戦闘機への魚雷の換装によるミッドウェーでのロスタイム、航続距離からたった10分しか戦えないとわかっているガダルカナルへの出撃……。今でこそ日本が敗戦にいたる原因とされたことをすべて見抜いていた宮部。その宮部が言う。特攻は成功も失敗も死であると。そしてその特攻の護衛任務のために、目の前で若い命が散っていく様を繰り返し見なければならなかった宮部の心境はどのようなものであったのか?
このシーンでみせた岡田准一さんの憔悴しきった演技がとても見事でした。現代のシーンでも、田中泯さん、山本學さん、平幹二朗さん、夏八木勲さんらが素晴らしい演技をみせてくれましたが、そこに引けを取らない岡田さん演じる宮部像はかなり秀逸だったと思います。
この作品は、反戦映画でもドキュメンタリーでもなく、今を生きる、戦争を知らない世代への問いかけであると思います。70年前に国が一丸となって突き進んだ狂気への道。映画の中でもあと10年もしたら実際に体験した者がほとんどいなくなると言ってましたが、その事実を語り継ぐためにしなければならないことは、伝えることよりも考えさせることであると言っている気がしました。
自爆テロと特攻の区別がつかない若者の姿。それは、教えるのではなく、自ら考えてもらわなければいけないことであり、この作品によって少しでも興味を覚え、一つでも調べてもらえたり、考えてもらえたりしたら、それでテーマとしては成功なのではないかと思います。その時代の考え方を完全に理解することはできません。でも、興味を持ってもらえなければ本当に風化してしまう。それがいま、我々ができる、次の世代への引き継ぎなのだと思います。
さて、この作品を観に行こうと思った最大の理由は、デビュー作からずっと観ている山崎監督のVFXで描かれる戦争シーンにあります。どんな映像を見せてくれるのかが本当に楽しみだったのですが……冒頭の赤城、零戦を観たときにかなりがっかりしてしまいました。
この作品は人間ドラマが主体ではありますが、そこに出てくる戦争にリアリティがなければ成り立ちません。日本では指折りのVFXを魅せてくれる山崎監督だからという期待が高すぎたんでしょうか。その質感が浮いてしまっているのが気になってしまい、映画に入り込めず、どこか冷めた目で映画を観ている自分がいました。
真珠湾にしても、ミッドウェー海戦にしても、日米の戦闘機による空中戦にしても、かなりのこだわりが感じられます。製作スタッフもそうとう力を入れていると思いましたが、それが逆に空回りしている感じといえばいいでしょうか。
実写で撮影したと思われる海、空、雲。その上に置かれたCGが、まるでゲームのグラフィックのように見えました。光の入り具合とか、かなりこだわっていると思うのですが、背景と一体感がない。赤城が被弾した甲板のシーンでは本物の炎を上げ、その炎が濡れた甲板に映り込んでいたりしますが、こうした本当の映像を間にはさむことで、さらにそのCGの違和感が増していました。
機銃掃射ではき出される薬莢といった演出は、よりリアルに見せるためなのだと思いますが、高速で飛ぶ戦闘機の薬莢があんなにはっきりと見えるとは思えないし、何かこう、作り手の思いが裏目に出てしまった、そういう映像に見えました。
ヤマトとかのSF作品であれば、多少そうした違和感があっても問題ないのですが、リアルに戦争の中にいる臨場感を伝えなければならないこの作品においては、第二の主役とも言うべき戦争のシーンに違和感を感じたら、やはり冷めてしまいます。この点だけが惜しいなぁという感じでした。
『永遠の0』は全国東宝系にてロードショー中です。
©2013「永遠の0」製作委員会
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